地球卵子説: 笛地 静恵 さん / Shizue Fuechi


【作者前記】50万アクセスおめでとうございます。特に国境と言語を越えて理解される画像の普遍性がうらやましいです。June Jukesさんの生み出される3DCGのコラージュのイメージの鮮明さを見る度に、笛地は文章での描写の限界を思い知らされています。しかし、同時に想像力で、どこまでこの迫真の表現に迫れるのかと、問われている気もするのです。今回は、夢が元ネタです。原色から白黒へ。妙にCGの鮮明な色彩を意識させられていました。昔風の表現なら、総天然色映画というところでしょうか。笛地のGTSは、終末の世界に登場してくるようです。あなたの優れた仕事に捧げます。

2009年10月14日 笛地静恵


終末論とは、閑談に過ぎない。

ドストエフスキー
『カラマーゾフの兄弟』より

筑紫山の中腹から、眼下の平野をベッドにして横たわる、身長2千メートルに近い巨大な二人の女の行為を鑑賞していた。白い雌の虎と青い色の龍の二つの山並みが、うごめいているようだった。ここからだと水平線にも、地球の湾曲が感じられる。わが母なる星は、半径6400キロメートルの壮大な球体なのだった。それも、千倍の巨人に変身した彼女たちには、一周しても40キロメートルぐらいにしか感じられないだろう。マラソンコースの距離だった。

自分が生きていた惑星地球が、ひどく愛しい場所に思えた。青い卵子を連想していた。生命に満ちた場所だった。45億年の歴史が、終わろうとしているからだろう。俺の人生も同じことだった。雲海が、白い湯気のように曲線美に満ちた女性の肉体にまとわりついていた。天女の衣服のようだった。いつのまにか、妻の相手は青い肌の女に交代していた。900メートルのバストが、ぶつかりあっていた。転がっていた。上になり下になっていた。四つの乳房は、彗星のように地表に激突しては、直径100メートルはある深いクレーターを、大地に、いくつもいくつもうがっていた。赤い色の沸騰する水をたたえた穴のようになっていた。500メートルのペニスが、ぶつかりあい、交差し、滑り、しなっていた。華麗なつばぜり合いを演じていた。宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘のようだ。真剣な迫力があった。白い血が成層圏まで飛び散っていた。一個の都市が、その下に沈んでいた。



かぶりつきの特等席だった。生涯の最期にレスビアンのストリップ・ショーを鑑賞というのも、悪くはなかった。褐色の女の背中には、青い龍の刺青があった。地の底から、にじみ出るような赤い光に照らされて、眼球が赤く光っている。人間の女が龍に跨がられて、上から犯されているようだった。長い手足に絡み取られて、苦しそうな声をあげていた妻は、実は快感に酔っているのだった。唇にあの謎めいた笑みを浮かべていた。終末の風景だった。

妻の巨大な尻は、大都市をその下に完全に押しつぶしていた。この夏のビキニの跡がくっきりと白い。ウルトラビキニのボトムのラインが刻印されていた。ヒップのサイズは、900メートルはあるだろう。今の彼女たちの身長は、もとの千倍にも達していた。その体重に、大地にひび割れが走っていた流動性で考えると、地球の表面は剛体である。リソスフィアという。しかし、その厚さは60〜100キロメートルぐらいであり、その下はアセノスフィアという液体である。マントルを作る橄欖岩が、内部の圧力と温度によって流動性を持っている場所である。おそらく内部のマグマの火が、赤い血のようにどぶどぶとあふれ出していた。地球は、生き物なのだ。その最後の日だった。大地が断末魔の痙攣に鳴動していた。このように猥雑で壮大な終末を、誰が予想しただろうか。



その朝、妻の亜里沙から相談があると言われた。そんなに暗い顔ではない。口元には、不思議な笑みを浮かべていた。安堵していた。浮気が、ばれたのではないようだった。本気ではない。あれは、遊びに過ぎなかった。ただ大きな瞳が潤んでいる。肌も女の凝脂がにじみ出るように光っていた。昨夜の妻は、激しかった。夜明けまで攻められた。全身が火照っていた。熱があるようだった。互いにあまり寝ていないが、爽快な気分だった。腰が軽かった。精液の最後の一滴まで搾り取られていた。口元の笑みは恥じらいのためなのだろうか?1リットル入りのオレンジジュースの紙パックを飲み干していた。病気ではないようだ。

亜里沙は、日本女性としてはかなりの長身だった。180センチメートルを越える俺と、目の高さが、それほどに違わない。朝のトーストをほおばりながら、あたし、男の人の気持ちが、分かってきたような気がすると、魅力的な笑みを浮かべていた。食欲があるのに、太らない体質だった。雌の虎のような弾力のある強靱な筋肉質の肉体だった。有能な看護師らしい。医師や同僚からの評判も良いようだった。今年から看護部長の地位にまで昇進していた。夜着にしている黄色と黒のストライプのTシャツの胸の谷間が、温かく深かった。



俺の通勤電車の時間が迫っていた。二人とも、家を出る時刻だった。空は雲が厚かった。米のとぎ汁ような灰白色である。そういえば、しばらく太陽の顔を見ていない。前線が、列島の上空に停滞していた。話は帰ってきてからという約束で、互いに方向違いだった。俺は、都心のオフィスに向かう私鉄の駅に向かった。妻は、地元の共済病院で看護師をしている。バスの停留所にヒールの高いミュールで器用に走っていった。スカートよりも、パンツを好んだ。足が長いので似合っている。だが、その朝は、珍しく足取りが変だった。よろよろとしていた。まだ、入っているみたいと笑っていた。昨夜は、相当に激しくついてやったから。もしかすると熱があるのかもしれない。気を付けろよと注意していた。体力に自身があるので、どうしても無理をしてしまう。心配していた。

 俺はズボンの生地を通しても、亜里沙の肉付きの良いふくらはぎから、引き締まった足首を透視することができていた。アスレティックな体型は、充分に若い。子供が、できなかったせいもあるだろう。二十代で通用する。昨夜も、羚羊のように、俺の腕の中で跳ねていた。後背位で、でかい尻を貫いていた。膣が開いて、びらびらがむき出しの状態になっていた。妻の欲望は、無尽蔵に思えた。愛液が枯渇するということもなかった。最近、まるます強くなっているような気がする。俺の方が疲れた。いつのまにか、眠りについてしまっていた。妻は、一度では満足してくれない。最低でも、三回は要求してくる。仕事で疲れている夜には堪えた。まあ、それでも仲の良い方だろう。いわゆる「性」格の不一致ということは、ないと信じたい。俺達は、美男美女の夫婦として、このあたりでも有名だった。今にして思えば、質問を聴いておけば良かった。後悔することになってしまった。何を訴えようとしていたのだろうか?



亜里沙はバスに飛び乗っていた。力が肉体のあの秘密の中心部分からみなぎってくる。前の座席に座っている、黒い顔で無口の亀のような女子高生でさえ、可愛らしくてならない。男が女に向ける視線の意味が、解ってきたように思う。要するにSEXの獲物と考えているだけなのだ。制服の下の処女の固い乳房の巨大さは魅惑的だった。股間の緊張がわからないようにバッグで隠しながら、少女の清純な口元に来るように、あれの狙いを定めていた。バスの揺れに紛れるようにして腰を動かしていた。小さな虎柄のショーツから、先端の頭の部分がはみ出ている。退屈な通勤時間が、獲物を物色するような楽しい時間に変化していた。自分が大きくなっていくのを感じていた。このバス全体に充満した自分の血と肉が、他の乗客を押しつぶしていく光景を夢想していた。荒くなった息を咳に紛らせていた。携帯電話を取り出していた。協会のHP にアクセスしていた。青龍様の今朝の言葉を読みたかった。約束の日は近いとあった。四神獣が目覚めて、封印が解かれるという。意味はわからないが、あそこが反応してぴくりと跳ね返っていた。まるで青龍様の優しい手が触れて下さったようだった。恍惚としていた。



身動きができないぐらいに大混雑した通勤電車に揺られながら、俺は考えていた。地球が、温暖化を初めとして、おかしくなっているということは、何となくわかっていた。理屈ではない。生物としての勘だろうか。何かが起こるに違いないという不安感が消えなかった。四季の変化だけでも、俺の子供頃と比較するだけでも、明らかに違う。明日は、こうなるという予想がある。しかし、あまりにも、そうならない。外れることが多かった。父母の世代は、もっと違和感を覚えているようだ。今年も十月になって、超大型の台風が本州を直撃し、横断していった。市内の川が氾濫した。古い橋を桁ごと流していた。まだ復旧が完了していない。川上か川下の橋に、迂回しなければならない。自動車の列で細い脇道までが、混雑していた。筑紫山が名前の通りに、紫色に小さく地平線に見えていた。



「二分の一」という話を聴いたことがある。一匹の蛙が、大きな池に棲んでいる。彼は、ある日、水面に一個の浮き草を発見する。翌日には二つ。二日後には四つ。三日後には八つになっている。かなり増えるなと思う。そのまま池の底に沈んで、眠ってしまう。ずいぶん、眠って水面に浮上してみた。浮き草は、池の半分を覆い隠していった。そちらは、水面に出られないし、水中の酸素も少ない。あまり、大きく増えると、この池にも住めなくなるだろう。しかし、まだ半分だ。蛙は、安心して、また池の底にもぐって眠りにつく。そんな話だ。いろいろなことを考えさせる。まだ半分ではなくて、もう半分も、といういろいろな徴候は、人類にも見えていたのかも知れない。見て見ぬ振りをしていたのだ。妻についても。何かが変化している。それは、なんなのだろう。最近、職場の同僚に誘われて、インターセックス協会という場所に出入りしている。そのせいなのだろうか?携帯に浮気相手からのメールが入っていた。遭いたいという。返信していた。



 白衣に雌虎のようなしなやかで豊満な肉体を。きつそうに包んだ亜里沙は、休憩時間に携帯で最近、若い女性の間に、密かに流行しているインターセックス協会のHPを見ていた。人間の理想は、男性でも女性でもない。両性具有が、その完成した姿であるというのが教義だった。神聖受胎の秘戯が、時代の深部で信仰している。教祖の青龍様は、その時は近いと預言されていた。亜里沙は、その言葉を信じていた。パスワードを頂いている。個人的な通話が可能だった。自分の身体にも、聖痕が、ついに出現していたからだった。教祖様のお情けを頂いたからだろう。感謝していた。かのインドのマハーバーラタや、ギリシア神話のテレシアス伝説で語られ、哲学者プラトンが「饗宴」で天使によって、二つに引き裂かれたと述べた強大で完全な種族が、ついに復活しようとしているのだった。教祖様が、ルドルフ・シュタイナー師から与えられた預言は、世紀を越えてその正しさが証明されたことになる。今までの人間は、不完全だった。二つに分裂していたからだ。ついに、男女が真にひとつになる時代が到来するのだ。



デザイン事務所で、出前の昼の弁当を食いながら、俺は妻のことを考えていた。クライアントとの会議が、それなりに順調に進行しているので、気持ちにゆとりがあった。来年度の広告を作っている。意図的に意識を現在の問題に向けていないと、今を生きていないような感覚になる。たとえば、今年の流行は俺には、すでに去年かその前から予定されていた計画が実行されているのに過ぎない。流行というのは幻想である。たとえば今年の流行色は、すでに数年前から有力なアパレルメーカー数社の合同会議で決定されている。黄色の布地が余ってくるとする。有力な歌手やアイドルに黄色の服を着せていく。消費者の関心を、そちらの方向に誘導していく。黄色が流行っているからといって、いきなり黄色い服を大量に製造できるはずはない。衣服は時間と手間をかけないとできない。風俗には、すべて既視感があった。

その日、妻の亜里沙は勤務する病院で、他の医療従事者と一緒に、集団接種を受けることになっていた。新型の鯨インフルエンザのワクチンは、日本では用意できる絶対数が足りない。今年の冬には、大流行が心配されていた。医師や看護師が、最優先だった。妻は、そのはしくれだった。全額が国の負担だというので喜んでいた。個人で受けるには、高額だった。共働きでも、家のローンの負担がある。もしも、子供ができた時のために、教育資金も貯蓄していた。二十代の若者中心の俺のデザイン・スタジオでは、まだ誰も打っていなかった。



しかし、こいつには、人類への凶悪な罠が用意されてあったのだ。副作用があった。人間の、特に女性のみを巨大させるという恐るべき効果があったのだ。誰がそんなことをしたのか?故意か偶然か、ついにわからないままに終わるのだった。



亜里沙は、病院の女子トイレにいた。重症者の多い病棟である。人の姿はない。タイトな白いスカートが、逞しい太ももの上までめくれあがっていた。白衣の若い看護婦の細くて鋭い鳥のような顔が、股間に埋まっていた。股間に隆々と盛り上がる器官を、しゃぶらせていた。どういうわけか、今年の春から陰核が巨大化するようになっていた。体調に変化はない。定期検診の結果にも異常はない。男性のペニスにそっくりである。睾丸がないから射精はできないが、それ以外は、そっくりといえた。夫の一物よりも大きいかもしれない。鈍感な彼は、自分の快感に没頭していて、亜里沙の肉体の変化に気が付いてもいなかった。充分に上から下まで若い看護師に唾液を濡らせていた。ピンク色につやつやと光っている。美しい器官だった。若い看護師が白衣の尻を向けた。朱色の小さなパンティを履いていた。細い紐のように尻の谷間に食い込んでいる。陰唇が厚い女だった。濡れていた。脇から挿入していた。涎を垂らしている。毛深くて貪欲な割れ目を深々と貫いていた。



太陽の黒点の数が、この十年間で最大に増えたこととも、何か関係があるのかもしれない。地球は、暗黒の時代を迎えたのだ。それから、鯨肉を食べる習慣を、諸外国の反対にあいながら、ついに捨てなかった日本では、何かの抗体が、体内に作られてしまっていたのではないだろうか。俺も、給食の鯨の竜田揚げは、大好物だった。いつか、もう一度、食べたいと思っていた俺には、どうせ答えが見つからないつまらない問の答えを白昼夢のように考えてしまう癖がある。今は、考えている場合ではない。行動するべき時だった。



あたしのなんて、まだまだ。そんなに大きくないわよ。まだ信仰が足りないのね。恥ずかしいぐらい。協会にいくと、信者のみなさんのありがたい信仰告白の話とともに、青龍様の聖痕を拝ませていただくことができるわ。ときには、交歓会があって、ご神体にさわらせてもらえる。口づけもできるよ。ありがたくて泣いちゃったことがあるぐらい。本当は、もう聖痕を抱いた女性が、町中にも、もう何人もあるいているのよ。あなたが、知らされていないだけ。女子高生でも、妙に生気があって、溌剌と闊歩している男のように、大柄な女の子を見ることがあるでしょ?彼女たちには、すでに聖痕が生えていると思うわ。さぞかし、多くの少女達に、傅かれているのでしょうね。うらやましいわ。それから、もっと大きくなっても、女ならば平気なの。簡単に男共をだませるのよ。お腹に抱きかかえてしまえばいいの。そうよ。うふふ。妊婦さんのかっこうをすれば、いいの。まず、ばれないわ。ミルクの甘い匂いで、性器の臭いもごまかせるでしょ。いくら重くても、電車の座席を、優しい殿方に代ってもらえるかもしれない。まだ、女尊男卑の愚かな男社会に、気が付かれていないだけ。もうすぐ、世界は大転換の日を迎えるわ。あたしには、わかるの。女の勘ね。ああん、大きくなっちゃう。だめ、止められない。どんどん、固くなっていく。どんどん。どんどん。ひい。なにこれ?あなたを引き裂いてしまう。ごめんなさい。とまらない。



俺はオフィス街の古びたラーメン屋で、遅い夜食をすすっていた。会議はコストの面で紛糾した。あまりにも理不尽な要求だった。ラジオの有線放送のラジオに耳を澄ましていた。最先端の場所にいると、古いものが妙に懐かしい。この親父の作る味は、十年一日で何の変化もなかった。それが貴重だった。海外の産物に頼らず、国内産の材料を集めるために、大変な苦労をしているだろう。出汁の昆布一枚だって、探すのは容易でないはずだ。親父は、そんな苦労を微塵も見せない。黙々とラーメンを丁度良い時間だけ茹でてくれる。それが貴重なのだ。あの衝撃の報道の直後から、テレビもラジオも、ほとんど沈黙していた。携帯電話もながらない。妻と連絡はつかない。帰宅の電車は、原因不明の停電によって走ってくれない。




都心の帰宅困難者の大群衆の1人になってしまった。歩くしかなかった。



通勤時間の快速電車ならば片道一時間半の道だ。徒歩でようやく東京を出たのは、二日後の夕刻のことだった。街は破壊されていた。竜巻が通過していったようだった。道路が寸断されていた。怪獣が出たという噂が流れていた。破壊されたビル街があった。地滑りを起こして、通行不能になっている道路があった。俺は、最初は信じなかった。何らかの自然災害だと思っていた。巨人が暴れているという、おかしな噂は耳に入っていた。しかし、信じてはいなかった。パニックの時期には、流言飛語が発生するというぐらいの知識はあった。自分の目と耳のみを信じる方だった。信じたのは、怪獣が残した、排泄物の黄金色の山を見た時である。凄まじい臭気に卒倒しそうだったが、生来の好奇心には勝てなかった。濡れたハンカチを鼻と口に当てて接近していった。アンモニアの刺激に涙が止まらなかった。半分以上消化されて、原型を留めていない同胞の人間の山を見た。喰われたのだ。卒倒する者が続出していた。



疲労困憊していた。事態が明らかになったのは、三日目の夕方になってからである。県境を越えて、避難センターのひとつに、ようやくたどりついた。配給の水と食料を受け取るために、例によって氏名と住所を所定の用紙に記入すると、自衛隊のものだというテントにつれていかれた。両腕をカーキ色の軍服の兵士にとられて、捕虜のように司令部に連行されていた。司令官のような尊大な態度の中年男から妻の亜里沙が、巨大化していると告げられた。



亜里沙は病院を破壊してから、隣接する工業地帯の工場街まで出ていったという。傍若無人に暴れ回っていた。腰の肉棒を棍棒のように振り回している。鉄塔をなぎ倒している。感電している。青白い火花が散っていた。衝撃に感極まったようだ。白濁した液体を高く噴出していた。自衛隊が、空中撮影した写真で、身元を確認させられていた。石油のコンビナートが燃えていて、今、なお鎮火が不可能な状況という。被害は甚大だった。死傷者の数は、一万人を超えるという予想だった。

妻は、全裸になっていた。その美しい、胸のかたちから、認めたくはなかったが、すぐに彼女だとわかった。右の方に三つの黒子がある。それに向かって左胸にあるキスマークは、俺がつけたものだった。赤くかぶれてしまっていたのだ。それでも、見分けがついた。この夏の虎柄のビキニの後も、陰毛をむき出しにした裸体に、生々しかった。彼女も、日本に同時多発した、謎の人体巨大化現象の犠牲者の1人ということだった。

気が付いたことがある。股間に巨大なペニスが生えていた。勃起して固くした状態だった。そりかえっている。身体との比率からすると、俺よりでかいかもしれない。異形の怪物だった。高層ビルの壁面に突き立てていた。コンクリートの壁面を、ウエハスでできている特撮模型であるかのように、容易に貫通いていた。巨大化の原因は、自衛隊にも不明だということだった。



その妻のために、多数の死傷者が発生していた。自衛隊は、俺に妻を攻撃するという計画を公表した。被害を拡大しないためである。受け入れらるはずがない。まず、落ち着くように説得すべきだった。連続写真の妻は、明らかにパニック状態だ。常軌を逸している。俺が説得すれば、何とかなるに違いない。建物や人間との比較から、十倍体になっているという。まだまだ巨大化するらしい。強行に反対した。気の立った自衛隊員にしたたかに殴られた。まるで、すべての騒動の元凶が俺だというようだった。数人のニキビ臭い若者に回された。その上で、キャンプの独房に監禁されていた。椅子に後ろ手で縛られていた。



悪夢を見た。俺達は、共働きである。子供はまだいない。無事に帰宅すると、妻がパンティを脱いで俺を待っていた。あなた、どうしましょ。身体が燃えて、仕方がないの。あなたが、欲しいの。ズボンとパンツを、玄関で脱がされていた。妻の身体は、異様に熱かった。

すぐにワクチンのことを考えた。日本では、絶対量が不足していた。ようやく俺達の番になっていた。職場で、集団接種すると、妻が朝に言っていたからだ。注射が嫌いなので、心に負担になっていたのだろう。俺は、それでも、妻の身体が心配だったから、絶対に受けるようにと、注意しておいた。妻は、その言いつけを忠実に守ったのだ。お前、大丈夫か?黒子の浮いた肩の筋肉を撫でていた。大丈夫じゃない。熱いの。欲しいの。妻は、熱に浮かされたように、俺の耳元で繰り返していた。息をあえがせていた。吐息が、風のようだった。


 
 パンティを脱いで待っていた。腕に注射をされていた。だいじょうぶよ。痛くないから。あなた、副作用なんて、ないっていったでしょ?あたし、妊娠していないか心配だったのに。1メートルのこびとにされていた。俺は、亜里沙のピンク色のTシャツの内部に、すっぽりと包まれていた。

内部には、白い胸があった。肉付きがよくて脂肪が乗っている。生地を透過してくる光に、白いもち肌が光っていた。汗をかいている。文字通りのもち肌が吸い付いてきた。とろとろと流れていた。何度も、巨大な乳房に鼻と口をふさがれていた。生地の弾力に、後頭部を圧迫されていた。妻の手は、俺の夏蜜柑ぐらいにしか感じられない後頭部を、鷲掴みにしていた。


椅子に後ろ手で縛られている。手が使えない。亜里沙の腕力は、凄まじかった。握力に、頭蓋骨が割れそうに軋んでいた。酸素が不足している。頭痛がした。身体の自由を奪われていた。されるままになっているしかなかった。


亜里沙という女の肉の中に、埋没してしまっていた。どこを向いても、白い肉だけがあった。空気には、亜里沙の匂いが充満していた。首が、上を向かされた時には、そこから明るい光が、わずかに射し込んでくるのがわかる。わずかにピンク色のTシャツの襟元の向こうに、太って段差のできた首から、顎のあたりが見えた。顔の表情は、伺うこともできなかった。

感じているのだろう。ああん。ああん。みだらな声を、傍若無人に大きく発していた。運動不足なのだろう。腹が膨らんでいる。女らしい腰のくびれは、ほとんどなくなっていた。何をしている生活しているのかもわからない。生活習慣も、不規則なのだろう。さぞかし内臓脂肪が、溜まっているはずだった。いかにも不健康そうだった。溌剌とした活発さは、どこにもなかった。鈍重な肉体を動かしている原動力は、欲望だけだった。

亜里沙の勃起した乳首は、男の亀頭のよう固かった。容赦なく口腔に侵入してきた。犯されていた。俺のペニスは、膣の筋肉の力で、拘束されていた。抜くこともできない。さっき、男の命を飲み込んだ口で、さらに貪欲に精液を搾り取られていた。大きな口のようである。強い力で吸引されていた。

小太りの女の体重が、俺の両の太ももに乗っていた。数百キログラムは、あるようだった。女という肉のかたまりに乗られていた。足は座れたように感覚がなかった。骨が折れるような痛みがあった。しびれてきていた。痛みも感じられなくなっていた。息ができない。苦しい。失神していた。暗黒が訪れていた。もう何度、この女のおっぱいの窒息刑に、もう何回、やすやすと屈しているのか?それすらも、わからなくなっていた。



俺は、独房の中で目を覚ましていた。拷問をされたらしい。しかし、若い自衛隊員の姿はなかった。独房の壁に割れ目ができていた。どうやら、昨夜自衛隊のキャンプが、巨大女性に襲われたらしい。妻の仕業なのだろうか。俺は、よろよろと外に出ていた。何とか妻に会わなければならなかった。自衛隊のカーキ色の大型バイクを拝借していた。鍵がついていた。不用心だった。運転していただろう男の下半身だけが、地面に出ていた。上半身は、地中に埋没していた。踏みつぶされたのだ。どういうわけか、男のペニスは、勃起したままだった。ピンク色のアスパラガスのようだった。俺は、そいつを、バイクに装備されていたライフルで吹き飛ばしていた。



妻はすぐに見つかった。巨人の女が暴れているという噂を、おいかけていけばそれで良かった。それに、その大きな姿は、地平線にそびえていた。発見は容易だった。未確認情報だが、千倍にはなっているらしい。山が動いていた。あちこちで街が燃えていた。どうにもならない。彼女の欲望のままに蹂躙されていた。白い沼のような精液のたまりが、あちこちにできていた。内部には、おたまじゃくしぐらいある精子が、うようよと動き回っているのが、肉眼で見えた。造精能力があるようだった。内部に閉じこめられて、人間の影が何名も黒く溺れていた。粘液の強力な粘着力のために、水面に浮上することもできない。強力な半透明の白濁した糊によって封印されたハエのようだった。



同じように巨大化した、若い白い小太りの女を仲間として見つけたようだ。69の体勢になっている。互いの巨大な性器をむさぼっていた。男根ではない。女根と言う言葉はあるのだろうか?相手は、かなり若い。十代の少女のようだ。妻の方が上になっていた。セックス三昧だった。70メートルの割れ目の肉の崖のようなヴァギナがあった。陰毛が薄いので、性器のピンク色の肉の襞が、めくれ上がってむき出しになっていた。



何よりも驚いたのは、妻の股間から400メートルの隆々とした肉の塔が生えていたことだ。肉眼で見るまでは、何かの道具ではないかと思っていた。だが、本物だ。本当に生えている。血肉のある器官だった。赤と青の血管がふとぶとと脈動していた。大蛇が取り巻いているようだった。もう何の常識も、通用しなかった。そのペニスが、挿入されたままだった。少女の愛液が、滝のように割れ目から流れ出ていた。あたりの地下街は、完全に女達の肉体が、分泌した液体によって水没していた。本来は弱酸性のはずだが、巨大化によって強酸性になっているようだ。人間の身体が、半ば以上溶解されていた。肉はなく骨だけにされていた。俺は、すでに略奪されたコンビニの奥から、かろうじて水と食料を調達していた。



壮大なピストン運動は、もう数日間も続いていた。ぐちゅうぐちゅうという湿った音が連続していた。金属が軋み合うような耳障りな音は、陰毛が絡まり合って立てているのだろう。爆発音もあった。建築物が倒壊する音ではない。そんなものは、とうの昔に彼等の巨体の下で瓦礫になってしまっている。



 俺は、自分の生まれ故郷の都市を筑紫山の上から見下ろしていた。東京から、高速道路を飛ばせば、一時間少しで来られる距離である。標高は、900メートルほどしかない。関頭平野を一望に見下ろす花崗岩の小山だった。アウトドアの好きな俺は、何度かハイキングに来たことがある。土地勘があった。



山歩きのためのリュックを背中に、オートバイに乗って、ここまで登ってきた。住居のアパートメントは、粉々に破壊されていた。が、裏口の側にある駐車場の方は奇跡的に無傷だった。HENDAの750CCに乗り換えていた。ガス欠の燃費の悪い自衛隊のバイクは、お払い箱になった。



几帳面にも、正面玄関の方から出ていったらしい。エントランスには、大きな穴が空いていた。アスファルトに素足の形が、くっきりと刻印されていた。一台の乗用車が、その中に、銀色の板状のスクラップにされて潰れていた。赤い染みは、乗客のものだろう。



巨人の腰と腰が、ぶつかる爆発音が何度も何度も轟いた。あそこまでは、直線距離でも何十キロとあるだろうに、妻のみだらなああんという声が、俺の耳をつんざいていた。巨人の精力は、人間とは比較にならない。驚異的な持続力だった。彼女たちの肉体を震源地として、大地震が発生していた。振動で、周囲の建築物が破壊されていた。妻のよがり声で、ビルの窓ガラスが、すべて破壊されていた。それだけではない。平野にも、罅が放射状に入っている。



日本列島は、断層によってずたずたに破壊された、カステラの固まりのような危険な場所だったのだ。茶色の砂糖のような薄い土砂によって、傷跡を隠された土地を、不動の場所と信じて、高い金を出して買った。たかだか数十年しかもたない家を建てて終の棲家と喜んでいたのだ。土地の価格に影響するので、地理学者は知っていただろう無数の断層の存在は、政治と経済界の手によって、慎重に隠蔽されていったのだ。足元に落とし穴があるとも知らされずに。大地震は、一時だけその存在を、国民の意識にさらしたが、それすら時の流れの中で容易に忘れ去られていった。災難は、忘れた頃にやってくるという寺田寅彦の言葉も、スローガンでしかなかった。巨人達の歩みは、その亀裂を明瞭な形で、地上に出現させただけのことだった。


俺のオートバイも、地面の段差を、何度も乗り越えて来なければならなかった。


空気は、女の性器の臭いが濃厚に満ちていた。大量の性フェロモンが、大気中に放出されていた。その動きに大気が動いていた。突風が発生していた。山の木々がざわざわと揺れ動いていた。人間の文明という薄い殻は、簡単にうち砕かれていた。野生の状態に戻っていた。男女ではなくて、雄雌だった。


あちこちで強姦されていた。インターセックス協会という模造ペニスをつけた巨大な女達の集団が、男狩りをしているという。おかしな噂も混じっていた。彼女たちは、巨人を神の顕現として崇拝しているらしい。それに、怒った男共が、協会を集団で襲っていた。混乱した状況だった。老若男女が、盛りのついた猫のようにまぐわっていた。警察も、消防署も、まったく機能していない。日本は、各地で巨人の攻撃を受けているようなものだった。戦争状態だった。自衛隊も、やってこなかった。



俺はタバコに火を付けていた。途中の村で、奇跡的に開いていた乾物屋で、カップラーメンを購入した。留守番をしているらしい老婆は耳は遠かったが、優しい人だった。俺に箸はいくつおつけしますかと質問してくれた。心がなごんだ。その上に、古くなってしまうからと、キクラゲをくれた。ガスストーブで火を付けて、コッヘルに入れて食べた。最後の晩餐だった。黒いキノコは、大きく膨らんでいた。食感が面白くて、おいしくいただけた。明日の朝は、見られないだろうということが、野生動物に戻ったような研ぎ澄まされた勘によって、自分には納得されていた。



とても眠れないと思ったのに、いつのまにか夜になっていた。異様な気配に、目を覚ました。疲れて眠っていたらしい。ここ数日間、大騒動の渦中にいた。ほとんど眠っていなかった。妻の亜里沙が起きあがっていた。俺がいる山に、大きな顔が急速に接近してきた。自分を探しているのかとパニックになった。しかし、そんなはずはないとわかった。今の妻には、俺など、数ミリもない。蟻よりも小さい。壁蝨のようなものだ。見えるわけがない。

妻は、ただ筑紫山に頭を乗せようとしているだけだった。男体山と女体山の二つの山の中間には、ちょうど良いへこみがあるのだった。そこに、よりかかろうとしていた。巨大だが、夜目にも美しい顔が、さらに巨大に夜空の星星を覆い隠していった。嵐の黒雲のように急速に接近してきた。妻の顔は、筑紫山の三分の一ぐらいの大きさがあった。前髪をカールさせて上げている。額の形が美しかった。聡明さが現れていた。そこに、俺は何度もキスをしてやったのだった。その額が、山頂の間に渡されているロープウエイを、蜘蛛の糸のように切断していた。感じてもいなかっただろう。鉄塔が地面ごとなぎ倒されて、宙を飛んでいた。一本が10メートルはある大木のようなまつげが、眼球の周囲で動いていた。

生臭い風が起こっていた。山の木々は、轟々と唸りを発していた。愛用のテントが、風に吹き飛ばされて空中に待っていた。俺は、手近の木の幹にしがみついていた。根こそぎに持って行かれそうだった。

妻の顔は快感に酔ったような、あの時のものだった。熱い湿った息が、驟雨のように降ってきた。精液の臭いがした。フェラティオをしてやったのだろう。もともと男の精液を飲むことが好きな女だった。俺が、そのように仕込んだのだ。ぼとぼとと零れる涎が、地面に衝突している。じゅうじゅうと山の木々を溶かしている。強力な消化酵素に満ちているのだろう。どろりと森林をなぎ倒しながら、降り注いだ。物が溶ける酸性の鋭い臭気がした。地表が溶かされている。上手そうに土をむさぼっていた。厚さ40キロメートルの地殻の他に、もう食えるものはあるまい。


妻は、筑紫山を適当な枕替わりにしようとしているのだろう。体位を変えようとしているようだった。あちこちで山崩れが発生していた。彼女は、後から責められるのが好きだったから。いやそうではない。もっと違う行為だ。龍の女にも陽根が生えていた。地平線から太陽が昇ってくる。虫に食われたように黒かった。陽光にも力がない。彼女たちの影が、平野にぼんやりと落ちていた。他にも少なくとも二人の巨大な女がいることが、地平線に動く影からわかった。合計四人の巨女たちは、地球の球面に巨女根を挿入していた。まるで地球という巨大な卵子の内部に侵入しようとしている精子のようだった。半径6400キロメートルの球体も、千倍の彼女たちには、6.4キロメートルぐらいにしか感じられないだろう。地球最後の日というのは人間の浅知恵で、実は受精卵としての新たな生命の段階を迎えるのかもしれない。太陽の黒い影は、俺には悪魔の横顔のように見えた。哄笑が木霊していた。

(終わり)

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